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<当記事はこんな方にオススメ>
・トレーニングの終わりに
・歯ぎしり癖がある
・筋トレを習慣にしている、スポーツ経験者
ミックスボイス研究所へようこそ。
当サイトでは一貫して、クリアで自由なミックスボイスを習得するためには「甲状披裂筋(TA:地声の筋肉)の過剰な働きを抑え、外側輪状披裂筋(LCA)による繊細な声帯閉鎖をコントロールする力」が最も重要であるとお伝えしてきました。
しかし、頭で理論を理解し、実際にLCAを動かす感覚を掴み始めた方にこそ、必ず訪れる「厄介な壁」があります。本日は、そんな壁にぶつかった時の「究極の対処法」について、筋肉と脳のメカニズムを交えて徹底的に解説していきます。
「昨日はできたのに、今日は全く声がまとまらない」の正体
LCA(外側輪状披裂筋)は、これまで地声で力任せに歌ってきた人にとっては、日常生活でほとんど意識して使ったことのない非常に微細な筋肉です。そのため、トレーニングによってLCAをピンポイントで稼働させられるようになっても、その筋肉はまだ圧倒的に「発達段階(赤ちゃん状態)」にあります。
発達段階の繊細な筋肉は、長時間のトレーニングや強い呼気圧に耐えられるほどの持久力を持っていません。そのため、「昨日はすごく良い感覚でLCAが閉鎖して、綺麗なミックスボイスが出た!」と喜んで1日練習した結果、次の日には筋肉が疲労してしまい、全く上手く閉鎖してくれないという現象が頻繁に起こります。
実は、この記事を執筆・投稿している私自身でさえ、コンディションによっては「今日はLCAが全然反応してくれない、ダメな日だ」と感じることが未だにあります。これは、発声器官が人間の肉体である以上、決して避けては通れない生理現象なのです。
焦りが生む「最悪のシナプス形成」
このように「昨日できたことが今日できない」という日、多くの人は焦りを感じてしまいます。「せっかく掴んだ感覚を忘れてしまったのではないか」「もっと息を強く当てれば鳴るはずだ」と、無理やり声を出そうと躍起になってしまいがちです。
しかし、LCAが疲労して働かない状態で無理に声帯を閉じようとすると、脳は「他の筋肉を使ってでも無理やり閉鎖させろ」という指令を出します。 すると、せっかく抑え込んでいたTA(地声の筋肉)が再び暴走したり、喉周りの無関係な筋肉が力み始めたりします。
これを繰り返すと、脳の神経回路(シナプス)に「高音を出す時は、喉を絞め上げて力む」という最悪な悪癖(間違った動作記憶)が深く刻み込まれてしまうのです。一度シナプスに刻まれた悪癖を取り除くのは、新しい感覚を覚えることの何倍も時間と労力がかかります。
だからこそ、LCAが反応しない日は、「思い切って発声練習を完全にお休みし、マッサージに徹する」ことが、上達への最短ルートであり、最大の防御策となります。
発声を阻害する3つの敵:「呼吸補助筋」の緊張とデメリット
発声をお休みする日に行うべきは、喉の自由を奪い、LCAの繊細な動きを邪魔している「発声を阻害する筋肉(呼吸補助筋および周辺の過緊張を起こしやすい筋肉群)」の徹底的なケアです。
日常のストレスや、前日の無理な発声、あるいは腹式呼吸の力みなどによって、これらの筋肉の柔軟性が失われ、ガチガチに固まった状態になると、発声器官にどのような悲劇(デメリット)が起こるのか。特に重要な3つの筋肉について解説します。
⑴ 胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)
耳の後ろから鎖骨の真ん中にかけて斜めに走る太い首の筋肉です。本来は首を曲げたり回したりする筋肉ですが、息苦しい時や過度なブレス時に胸郭を無理やり引き上げる「呼吸補助筋」として働いてしまいます。

<デメリット1>喉頭(喉仏)の固定化
この筋肉が緊張して硬くなると、首全体がギブスで固められたような状態になります。結果として、音程を変えるために自由に上下前後に動かなければならない喉頭の動きが完全にロックされ、ピッチコントロールが極端に悪化します。
<デメリット2>息のコントロール喪失
胸鎖乳突筋が力むと、連動して肩や胸が上がり、理想的な「横隔膜のキープ」ができなくなります。結果、声帯に過剰な息がぶつかり、LCAの薄い閉鎖が吹き飛ばされてしまいます。
胸鎖乳突筋のマッサージ
①顔を右斜め45度くらいに向けます。すると、左耳の後ろから鎖骨に向かって、太い筋が斜めにポコッと浮き出ます。これが左の胸鎖乳突筋です。
②右手(反対側の手)の親指と人差し指で、その浮き出た筋肉の「お腹」の部分を、優しくつまみます。
③つまんだまま、筋肉を骨から軽く引き離すようなイメージで、左右に優しく「ユラユラ」と揺らします。
④耳の下の付け根付近から、鎖骨の付け根付近まで、3〜4箇所に分けて少しずつ位置をずらしながら揺らしていきます。
⑤終わったら反対側も同様に行います。首を回した時に、マッサージした側がフワッと軽く感じられれば成功です。
⑵ 舌根(ぜっこん)
舌の根元、つまり顎の奥底にある筋肉群です。発音に関わるだけでなく、そのすぐ下にある「舌骨」を通じて喉頭と直接繋がっている、発声の要となる部分です。

<デメリット1>喉頭の圧迫(ハイラリンクスの誘発)
舌根に力みが生じ、奥に引っ込むように固まると、繋がっている喉骨や喉頭を上から力強く押し潰す、あるいは不自然に引き上げてしまいます。これにより、声道(声の通り道)が狭くなり、いわゆる「喉声」「詰まった声」の直接的な原因となります。
<デメリット2>共鳴腔の破壊
舌根が固まると軟口蓋(口の奥の天井)を高く保つことが難しくなり、前回解説した「鼻腔後方の空間」が潰れてしまいます。せっかくLCAが閉鎖していても、音が響かず、こもったガラガラ声になってしまいます。
舌根のマッサージ
①顎先をつまんだ状態で舌を出します。
②その状態をキープしたまま限界まで顔を上げます。
この時、舌の根本が伸びる感覚が分かるかと思います。これを10秒~20秒行いましょう。

⑶ 茎突咽頭筋(けいとついんとうきん)
頭蓋骨の一部(茎状突起)から、咽頭(のどの奥)や甲状軟骨(喉仏)に向かって伸びている、喉を吊り上げている筋肉の一つです。主に物を飲み込む時に喉仏を持ち上げる働きをします。

<デメリット1>慢性的なハイラリンクス(喉仏の上がりっぱなし)
歌唱時、特に高音へ向かう際にこの筋肉が過剰に緊張すると、喉仏が限界まで上に引きずり上げられたまま降りてこなくなります。輪状甲状筋(CT)が声帯を引き伸ばそうとする動きを物理的に邪魔してしまうため、高音域が非常に苦しくなります。
<デメリット2>LCAとTAのバランス崩壊
喉が不自然に引き上げられた状態では、声帯内の筋肉(TAやLCA)が本来のベクトルで引っ張り合うことができず、筋肉の拮抗バランスが完全に崩壊します。声がひっくり返る「フリップ」の大きな原因となります。
茎突咽頭筋のマッサージ
①耳たぶのすぐ後ろ、エラ(下顎角)と首の太い筋肉の間に、少し凹んだ窪みがあります。
②そこに両手の人差し指または中指の腹をピタッと当てます。
③強く押し込むのではなく、皮膚の表面を1ミリ程度動かすようなイメージで、小さく円を描きながら優しくマッサージします。
この部分が凝り固まっていると、口を大きく開けにくくなります。マッサージをしながら、ゆっくりと口を開け閉めしたり、小さくあくびの動作を数回行うことで、深部の茎突咽頭筋がストレッチされ、喉仏が自然と下がりやすい状態になります。
甲状軟骨周辺(喉仏周辺)のマッサージ
発声を阻害する呼吸補助筋のマッサージを行いましたが、肝心な声帯周りの筋肉が硬いとパフォーマンスが半減しています。最後の仕上げとして甲状軟骨のマッサージも実践してみましょう。
①喉仏の左右どちらか側に親指をあてます。
②その状態で右にあてた方は右斜め後ろに。
左の方は左斜め後ろを向きます。
③その状態で舌を伸ばします
舌根よりもさらに奥の咽頭筋あたりが伸びているのが分かると思います。
これを左右10秒~20秒ずつ行いましょう。

まとめ:休むことも、最高のアプローチである
いかがだったでしょうか。本日は「発声をお休みする日の重要性」と、「呼吸補助筋群のマッサージ法」について解説しました。
- 発達段階のLCAは疲労しやすく、「昨日できて今日できない」のは当たり前の現象である。
- ダメな日に無理やり発声すると、脳のシナプスに悪い癖(TAの暴走や力み)が刻み込まれてしまう。
- そんな日は思い切って発声を休み、胸鎖乳突筋、舌根、茎突咽頭筋など、発声を阻害する筋肉のマッサージに徹するべきである。
- これらの筋肉の柔軟性が失われると、喉頭がロックされ、理想的な共鳴や声帯閉鎖のバランスが完全に崩壊してしまう。
ボーカリストにとって、「声を出さない練習」に時間を割くのは勇気のいることかもしれません。しかし、ガチガチに固まった楽器(肉体)をいくら鳴らそうとしても、美しい音色は決して出ません。
「今日はなんだか喉が重いな」「LCAのチリチリ感が掴めないな」と感じたら、それは身体からの「リセットして!」というサインです。焦る気持ちをグッと堪えて、今日紹介したマッサージで筋肉をフワフワの状態に戻してあげてください。一晩しっかり休ませれば、次の日にはまた、驚くほどクリアで自由なミックスボイスが鳴ってくれるはずです。



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